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やっしーさん (90z3f81m)2024/2/8 22:39 (No.1069004)削除負の側面を覆い隠す分厚い仮面ーー内田良『教育という病 子供と先生を苦しめる「教育リスク」』(光文社、2015年)
「教育は善である」。この言葉を聞いたことのある人は少ないだろう。なぜなら、それは改めて議論するまでもない共通の観念としてすでに私たちに刷り込まれているからだ。しかしこの固定概念に警鐘を鳴らしているのが本書である。著者は幾年にもわたり教育リスクについて研究・主張してきた名古屋大学大学院教育発達科学研究所准教授などを務める内田良氏だ。
教育に危険が潜んでいるとはどういうことか。本書ではその例の1つに組体操をあげている。小中高を問わず、体育祭や運動会の種目に組体操を取り入れているところは多い。採用理由については、「大勢で力を合わせ1つの困難を乗り越えることは教育的意義があるから」と説明される。この教育的意義という言葉が、組体操に潜む危険性を大人にも、そして子供にも無視させているというのだ。たとえば、組体操の花形でもあるピラミッド。その近年高さが上昇する傾向にあり、10メートル近くなることもしばしばだ。しかし、それを組んでいるのはあくまで人間である。下段の担当者は、位置によっては1人で数人分もの体重を支えなければならないことも珍しくなく、もしピラミッドが瓦解すればそれ以上の重量に襲われることになる。実際にピラミッドの瓦解が原因で深刻な後遺症を伴う怪我をした事例も少なくない。バスケットボールやサッカーなど他のメジャーな競技と比べると、その事故発生率が異様に高いことが本書内にも記載されている内田氏の統計で明らかになっている。しかしながら「危険だから」という理由で組体操から手を引く学校は非常に少ないのが現状だ。
これが「教育的意義」のためにリスクが見えなくなっているということである。本書では他にもさまざまな例を用いてそのことについて言及している。
私たちはこれまで、なにも不思議に思うことなく「教育」を受けてきた。しかし今、その実態について新しい目線で見つめ直す必要がある。(856字)(最終版)